1987年、Appleは最初のHuman Interface Guidelines(HIG)を公開した。Macintoshの普及に伴い、ユーザーとコンピュータのインタラクションを標準化する必要があったためだ。この文書はエンジニアではなくデザイナーに向けて書かれており、「ユーザーの意図を裏切るな」という一文が根底に流れている。
Aquaインターフェースの時代(2000年代)
Mac OS X の登場とともに、HIGは大きく変容した。Aquaは光沢感・立体感・アニメーションを全面的に取り入れ、デジタルを「触れるもの」として演出した。ドック、ジェニーエフェクト、シートダイアログ——これらはすべてHIGの原則に基づいて設計された。
当時のAppleにとってリアリティは説得力だった。ユーザーはコンピュータに不慣れで、物理世界のメタファーが必要だった。ゴムバンドのスクロールも、ファイルがゴミ箱に吸い込まれる動きも、すべて学習コストを下げるための設計だ。
フラット化とiOS 7(2013年)
Jony IveがVisual Designのトップに就任した2013年、iOS 7はAquaの対極に振れた。グロス、テクスチャ、擬似的な奥行きをすべて削ぎ落とし、タイポグラフィと色だけで階層を表現するフラットデザインへ移行した。
批判は多かった。しかし本質を見れば、これはHIGの原則——「コンテンツを前面に」——の徹底だった。ユーザーが十分にデジタルに慣れた今、メタファーは不要になった。
現在のHIG:クロスプラットフォーム設計
今日のHIGはiOS・macOS・watchOS・visionOSを横断している。デザイントークン的な考え方が導入され、システムカラー・SF Symbols・ダイナミックタイプが一貫性を支える。visionOSの「ガラス素材」は、Aquaの立体感を空間コンピューティングに再解釈したものだ。
Appleのデザイン哲学は変化しているようで、「ユーザーに媒介を感じさせるな」という一点は不変だ。HIGが積み上げてきた40年は、その探求の記録である。