NikeもadidasもVANSも、今日の生産拠点はほぼベトナム・インドネシア・中国だ。コストと効率の観点からこれは合理的な判断だ。New Balanceはその流れに逆行し続けている。
アメリカの工場で作られた990シリーズには、タングの内側に「Made in USA」の文字がある。イギリスのフリンビーで作られる576・1500には「Made in England」。この2行は単なる産地表示以上の意味を持つ。
数字が示すコスト構造
アメリカ製のNB990シリーズは現在350ドル前後。同等のクッション性能を持つアジア生産のモデルは130-180ドル程度で入手できる。差額の170-220ドルが「国内製造のコスト」を大まかに示している。
New Balanceは自社の米国工場で約1,000人を雇用しているとされる。効率的ではない。しかしそれを「非効率なコスト」ではなく「ブランドへの投資」として捉えると、話が変わる。
職人性とデザインの関係
フリンビー工場の職人は、一足のシューズを数十の工程で手作業で仕上げる。革の裁断精度、縫い目の均一性、ラストへのフィットがアジア大量生産では出せないレベルで保たれる。
576 GTI(ゴアテックス仕様)や1500のアッパーに見られる縫い目の密度は、目で見てわかる。写真では伝わりにくいが、実物を手にしたときの「これは違う」という感覚を生み出す要素だ。
990シリーズのデザイン文法
1982年に発売された990は、当時175ドルという革命的な価格設定だった。スニーカーが初めて100ドルの壁を越えたという記録が残る。
デザインは40年にわたって進化しながら、いくつかの要素を保持してきた。サイドパネルのN字ロゴ、グレーとネイビーのカラースキーム、分厚いミッドソール。990v6まで続く系譜の中で、何を変えて何を残すかの判断がブランドの一貫性を作っている。
「アメリカ製」の記号的価値
「Made in USA」が付いた製品が特別な価値を持つという感覚は、論理的には説明しにくい。しかし市場はそれに応答し続けている。
New Balanceのアメリカ製ラインはコレクターに高値で取引され、ファッションとの協業(Aime Leon Dore、Joe Nimble)でも頻繁にこのラインが選ばれる。場所そのものがブランドの一部になっている。
どこで作るかを決めることもデザインだ。